学校の夏休み短縮に反対します

【意見ページ】新学期9月1日スタートを守ろう



最近、学校の夏休みを短縮(減らす)地域が一部にあるようです。
授業時間が足りないというのが主な理由のようです。

日本の学校は長年、9月1日を新学期スタートの日としています(冬休み等で調整する寒冷地等の一部の地域を除く)。いまも多くの地域は夏休みの短縮はしないままきちんと教育を行っています。なのに、なぜ夏休みを減らさなければならないのでしょうか。

夏休みを短縮することで失うものを考えていきたいと思います。

  

【お知らせ】

・学校環境衛生基準による教室の温度は「17℃以上、28℃以下」に改正されています(2018年改正)。

・2018年8月7日、文部科学大臣より、熱中症の事故防止の観点から、夏休みの延長等の検討を教育委員会等へ依頼する旨の会見がありました。

 

 
(項目)
1.夏休みは、子どもたちになくてはならない海外でも定着した制度である
2.夏休みは「体験活動」に必要な貴重な教育の時間である
3.新学習指導要領(脱ゆとり)でも夏休みの短縮は不要
4.夏休みは自然の摂理に従った昔からの知恵、省エネにも貢献する
5.学校の夏休みは大人にも関係がある
6.抜け駆け的な教育はアンフェアである
 関連年表
 あとがき

   学校の夏休み短縮に反対します

 

  

 

1.夏休みは、子どもたちになくてはならない海外でも定着した制度である

大人になるまでに誰もが経験したことがある学校の夏休み。
誰もが、夏休みならではの思いでがあると思います。
田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの家に泊まりに行く、家族旅行、アウトドア。忙しい家ではお手伝いをすることもあるでしょう。
スポーツ、部活動、習い事に励んだ人、また、入院や手術等(歯科治療や眼鏡等も含め)、夏休みを療養に利用した人もいるかもしれません。

いずれも、夏休みでなければ、なかなか難しいことです。
アメリカやスウェーデン、ロシアの学校では2〜3か月間の夏休みがあり、夏休みは海外でも定着した制度です

夏休みがあるから、学校生活も頑張れる、と言っても過言ではないでしょう。

教育行政を担う者たちが、
学校教育の国際化、グローバル化
(というよりも
欧米標準?)などと言うのであれば、

夏休みについても、国際的な標準から離れるような短縮など行うべきではないと思います。

 

夏休みは海外でも定着した制度 

 

  

2.夏休みは「体験活動」に必要な貴重な教育の時間である

夏休みならではの教育活動があります。
まずあげられるのが、補習、夏期講習、自由研究、読書、職業体験、ボランティア活動等でしょう。
特に、学校の集団的な学習に付いていけない、または、物足りない、という子どもにとって、補習や発展学習等の時間は、
学校の授業では代替できない貴重な学習時間です。

さらにあげれば、

・ 自然体験、林間学校、臨海学校等の自然の中での体験学習
・ スポーツ・部活動の合宿・大会・発表会
・ 志望校の訪問・調査、オープンキャンパスへの参加
・ 進学準備、就職準備
・ 個人的な悩みを解決するための教育相談
・ 夏休みでなければできない習い事の充実
・ 検定試験、技能競技
・ 普段出来ない趣味を充実させる
・ 地域の祭り・盆踊り・その他イベントへの参加
など

夏休みの宿題が終わらなくて、ものごとの計画性、時間の自己管理を学んだ人もいるでしょう。
夏休みは能動的な実践の教育の時間であるといえます。

文部科学省の中央教育審議会も、
体験活動が重要であるとして「今後の青少年の体験活動の推進について」(2013年 1月21日)という答申を出しています(以下、「答申」と称する)。
答申がいう「体験活動」とは、
「体験を通じて何らかの学習が行われることを目的として、体験する者に対して意図的・計画的に提供される体験」と定義されています。
具体的には、「直接自然や人・社会等とかかわる活動を行うことにより、五感を通じて何かを感じ、学ぶ取組を広く包含」(答申p.5)したもので、

・ 放課後に行われる遊びやお手伝い、野遊び、スポーツ、部活動、地域や学校における年中行事など(生活・文化体験活動)
・ 登山やキャンプ、ハイキング等といった野外活動、又は星空観察や動植物観察などの自然・環境に係る学習活動(自然体験活動)
・ ボランティア活動や職場体験活動、インターンシップなど(社会体験活動)

をあげています。そのほか重要と思われる主な内容を抜粋すると

・ 現在の青少年は「地域とのつながりの希薄化」(答申p.2)
・ 子どもの頃の体験が豊富な人ほど、規範意識・職業
意識・人間関係能力・文化的な作法や教養・意欲や関心等が高い傾向(答申p.6)
・ 効果的な体験活動は、小学校低学年までは「友達との遊び」「動植物とのかかわり」、小学校高学年から中学生までは「地域活動」「家族行事」「家事手伝い」等(答申p.11)
・ 企業が必要と考える「社会人基礎力」を身につけるためには、体験活動が有効(答申p.20)
・ 学校の教員は生徒指導上の問題への対応等の様々な課題で忙殺されており、体験活動の機会の確保が十分になされていない(答申p.3)
・ 社会全体として体験活動を推進していくために、国や地方公共団体のほか、地域・学校・家庭・民間団体・民間企業等がそれぞれの立場で自らの役割を適切に果たし、連携していくことが必要(答申p.4)
・ 体験活動の充実のためには、地域住民の参画による学校支援地域本部や放課後子ども教室等の仕組みを活用した取組の推進、地域住民が主体となって活動を展開する総合型地域スポーツクラブでの取組など、地域づくりの活動の中に位置付けて行っていくことも必要(答申p.21)。
・ 7月~8月の夏休み期間中に行われる青少年団体(ボーイスカウト)の活動(答申p.35)

など、書きれませんが、無限の可能性が体験活動にはあると解することもできます。
体験活動は、重要な教育活動であることを文部科学省も認めているのです。
その活動は学校から離れた活動でもあり、学校の一斉授業から解放される夏休みに行うのが最も適しています。
答申には夏休みにおける全国規模での活動例も出ていますが、
このような全国的な体験活動を行うためには、全国統一的な安定した夏休みが必要です。

もし、夏休みの期間が短縮され、それが地域によってばらばらに設定されるようなことになれば、
子どもの住む地域によってこのような体験活動の機会を失いかねない、といえるのではないでしょうか。

また、全中大会、吹奏楽コンクール、マーチングコンテスト(高校なら甲子園大会、総体)等が代表例ですが、
子どもたちが参加する各種のスポーツ大会、音楽コンクール、技能競技等、
全国統一的な安定した夏休みがなければ、成り立たない大会やイベントも多いのです。
さらに、暑い季節にスポーツ大会やマーチング演奏等で体を酷使した後は、十分な休養期間も必要です。

もし、夏休みが短縮されてしまえば、子どもたちの大事な大会やイベントが、訓練・準備時間も含めて十分に行えなくなるでしょう。
子どもの特性に応じた能力を伸ばす機会を失うばかりではなく、体調の管理にも支障がでるのではないでしょうか?

このようなことから、夏休みはたいへん貴重な時間であり、減らしてはならないといえます。

    

 夏休みは体験活動に必要

   

  

3.新学習指導要領(脱ゆとり)でも夏休みの短縮は不要

夏休みを短縮する理由として、授業時間の確保があげられています。
授業時間は「学校教育法施行規則」という文部科学省令によって定められています。
改正された文部科学省令では、すべての学年において授業時数(法令上は時間ではなく「時数」という)が増加しています。
しかし、この改正によって夏休みを短縮しなければならないほど学校の法定授業時間は増加しているでしょうか?
具体的に確認してみましょう。


(1)各学年ごとの年間授業時数(1時数あたりの単位時間=
小学校45分、中学校50分)

学年 改正前 改正後(脱ゆとり) 増加時数
授業時数(小学2011年、中学2012年完全実施) 単位:時数
小学1年 782 850 +68
小学2年 840 910 +70
小学3年 910 945 +35
小学4年 945 980 +35
小学5年 945 980 +35
小学6年 945 980 +35
中学1年 980 1015 +35
中学2年 980 1015 +35
中学3年 980 1015 +35
1授業時数の単位時間は小学校45分、中学校50分
(出所)学校教育法施行規則・別表

筆者算出

改正前と改正後の年間授業時数の比較です。
小学校低学年(小1~小2)の増加時数が多いことがわかります。1授業時数の単位時間は、小学校が45分、中学校が50分です。
小学校、中学校で行われる授業時数は法令によって全国一律に定められおり、地域によって異なることはありません。

 
(2)文部科学省が想定する各学年ごとの週あたりコマ数

学年 改正前 改正後 増加
コマ数

改正後の一日あたりの
授業時間例(週5日)

週あたり授業のコマ数  単位:コマ
小学1年 23 25 +2 5時間授業×5日
小学2年 24 26 +2 5時間授業×4日、6時間授業×1日
小学3年 26 27 +1 5時間授業×3日、6時間授業×2日
小学4年 27 28 +1 5時間授業×2日、6時間授業×3日
小学5年 27 28 +1 5時間授業×2日、6時間授業×3日
小学6年 27 28 +1 5時間授業×2日、6時間授業×3日
中学1年 28 29 +1 5時間授業×1日、6時間授業×4日
中学2年 28 29 +1 5時間授業×1日、6時間授業×4日
中学3年 28 29 +1 5時間授業×1日、6時間授業×4日
(出所)文部科学省
移行措置期間中の小学校の標準授業時数について
移行措置期間中の中学校の標準授業時数について
現行学習指導要領・移行措置関連資料
文部科学省作成の週あたり
コマ数例より筆者作成

これは定められた年間授業時数に基づいた一週あたりの授業コマ数を各学年ごとにあらわしています。
コマ数の出所は表内に記載しているとおり文部科学省の資料です。
改正前と比較すると、小学校低学年(小1~小2)が2コマ増加、その他は1コマの増加です。
改正後の週あたりコマ数に基づいて一日あたりの授業時間の例を出してみました。
「一日あたりの授業時間例」をみればわかるように、小学1年が、毎日午後の授業がありますが、
この週あたりコマ数で、児童生徒に大きな負担になるほどの時間割になるとも思えません。

  

(3)年間の授業週数

学年 週あたり
授業コマ数
授業を行う週数 算式(時数/コマ数)
週あたり授業コマ数と年間の授業週数
小学1年 25コマ 34週 850時数/25コマ
小学2年 26コマ 35週 910時数/26コマ
小学3年 27コマ 35週 945時数/27コマ
小学4年 28コマ 35週 980時数/28コマ
小学5年 28コマ 35週 980時数/28コマ
小学6年 28コマ 35週 980時数/28コマ
中学1年 29コマ 35週 1015時数/29コマ
中学2年 29コマ 35週 1015時数/29コマ
中学3年 29コマ 35週 1015時数/29コマ

上記(2)の表より

筆者算出

年間の授業時数を一週あたりの授業コマ数で割ると、授業を行う週数が求められます。
授業時数は学校教育法施行規則((1)の表)から、週あたりの授業コマ数は文部科学省の資料((2)の表)からです。
小学1年が34週、その他は35週です。

 

(4)年間休日、通学日の内訳(法令どおりの授業を行っていれば夏休みの短縮が不要であるという根拠)

種類 日数 備考
年間休日・通学日等の内訳(2015年4月~2016年3月、2月は29日間)
土曜日 42日 長期休み中は含まない
日曜日 42日 長期休み中は含まない
国民の祝・休日 15日 長期休み中は含まない
夏休み 40日 7月23日~8月31日として
冬休み 14日
春休み 14日
その他の休み 7日 記念日、悪天候、学級閉鎖等(推測)
(休日計) (174日)

法令を満たすために
授業を行わなければ
ならない日数

175日

上記(3)で算出した「授業を行う週数」
35週×5日(国民の祝・休日等は含まず
上記休日へ計上)
授業の余裕日 17日
(授業日数計) (192日)

(総合計)

(366日)

閏年(2016年)のため2月は29日間

年間(2015年4月~2016年3月)における休日と通学の内訳を一覧にしました。
年間の授業時数は(3)の表のとおり、35週(小学1年は34週)で満たすことができますので、
35週に5日(週5日)を掛けることで、法令を満たすために授業を行わなければならない日数(通学日)は、
最低175日(小学1年を除く)であることがわかります。
ただし、実際のカレンダー上の週をカウントするのみでは国民の祝・休日や、臨時休校等(「その他の休み」と記載)があり、
授業時数が満たせませんので、それらは休日に計上しています(「その他休み」は多めに見積もって7日とした)。


このようにして年間の休日、授業日数の内訳を作成すると、
「脱ゆとり教育」と呼ばれる現行法令下のコマ数であっても、夏休みは短縮せずに法定授業時数を満たせることがわかります。
さらに、17日間もの授業の余裕日(法令を満たすために授業を行わなければならない日数のおよそ1割)が
生じることもわかります(閏年のため2016年2月は29日まで計上)。
最高学年は卒業式が早いのでさらに休日が増えるものの、それを差し引いたとしても、

改訂(改正)後の学校教育法施行規則及び学習指導要領を理由に夏休みを短縮する必要は全く無いのです。
計算上わかることは、夏休みの短縮が必要ないばかりでなく、夏休みを増加できる可能性さえあるのです。

授業時間が足りないなどというのは、その原因が学習指導要領等の改訂にある、というよりも、
学校がかかえる根本的な問題に起因しているのではないでしょうか? 
それを整理整頓しないまま、夏休みにしわ寄せをするのはいかがなものでしょうか。

ちなみに、全国に先駆けて教室へのエアコン導入と夏休みの短縮が実施され、マスコミにも取り上げられていた東京都葛飾区ですが、
2014年度から夏休みの短縮をやめています
現在は葛飾区内のすべての公立小中学校で、8月末日までが休業日になっています。
(ただし、葛飾区では毎月第2土曜日を「葛飾教育の日」とよび土曜授業を実施しています)
このことからも、関係者等の努力によって夏休みは守ることが出来る、といえるのではないでしょうか。

 

  脱ゆとりでも夏休み短縮は不要

 

  

4.夏休みは自然の摂理に従った昔からの知恵、省エネにも貢献する

近年、猛暑日も増え、地域によっては、学校にエアコンの導入を行っているところもあるようです。
でも、夏休みを短縮して授業を行い、そこでエアコンを運転することには違和感があります。
 
最初、学校の教室にエアコンを設置するようになった理由は、
従来から夏休みではない7月上旬、9月の時期に教室が暑く、学習に支障があるということからでした。
そもそも、夏休みを短縮する目的でエアコンを設置しはじめたのではありません。

また、教室にエアコンを設置したところで教室以外の体育の授業、特別活動、休み時間、その他(炎天下の下校も含め)は、
エアコンの無いところでも行われるのですから、エアコンによって夏休みを短縮する環境が完全に整ったとはいえないでしょうし、
窓や扉を閉め切った換気も少ない教室に汗をかいて戻ってきたところで、すぐに学習活動が捗るとも思えません。
(通常、単独のエアコンは換気を行いません。事務所ビルの場合なら、ダクト吸排気設備によって換気も一緒、または、併設的に行われています)

さらに、成長段階の児童生徒の健康面で言えば、頻繁な環境の温度変化は体調や体質管理によいとも思えません。
(ほとんどの学校は全館空調ではなく、教室等の部分空調でしかない)

夏季は、大人でも体力を消耗しやすく、体調を崩しやすい季節です。
心や体の働きを基礎に知的な活動をする学習活動は、単に教室を涼しい環境にしたからといって能率が上がるとも思えません。
季節に関係なく効率よく記憶や計算をしているコンピューターとは違います。

夏休みを短縮する理由が授業時間の確保であるならば、なぜ、かつて授業が行われていた土曜日を休日のままにしているのでしょうか。

エアコンのいらない春や秋の土曜日の授業をやめて、
わざわざ暑い季節に授業を移動してきてエアコンで電力を使う、というのは、本末転倒
といわざるを得ないでしょう。

貴重なエネルギーを消費し、電力量料金も発生します(さらに、業務用空調機はメンテナンス費用や減価償却コストも大きいです)。

エアコンの導入とともに夏休みを短縮する地域もあるようですが、
夏休みを短縮して一斉授業を行うことを空調設備工事の予算確保の理由にしたり、
子どもの側からみて、夏休みの短縮と引き換えに快適な環境を手に入れる、といった取引感覚(取引材料)になったりすれば、
子どもにとって押しつけがましい議論にもなるのではないでしょうか。

暑い時期に学校を休みにする夏休みは、自然の摂理に従った昔からの長年の知恵であり、
省エネルギーとともに教育予算の効率化にも貢献するのではないでしょうか。

  

夏休みは自然の摂理に従った知恵・省エネ   

  

 

5.学校の夏休みは大人にも関係がある

(1) 夏休みを対象とした事業
旅行関連、テーマパーク、学習塾、おけいこ塾、玩具、イベント等・・・夏休み中の子どもやファミリーを対象とした事業が多くあります。

子どもは、そうした産業からの商品やサービスの供給を受けて学校以外の社会とかかわり、成長していきます。
子どもはそうした活動を通じ、消費者として地域経済の一部を担っているともいえます。
対価を支払うのは保護者がほとんどでしょうが、子どもがいなければ成立しない関係です。

(2) 8月下旬にしか夏休暇を取れない親もいる
世間がお盆休みを取得している間に勤務をしている大人たちもいます。
夏の休暇を8月下旬に取得せざるを得ない人たちも多いのです。
そういう親の家庭では、子どもの夏休みが短縮されてしまえば、
夏季の家族旅行等、家族としての貴重な活動の機会が失われてしまう可能性もあります。


(3) 教員免許の更新講習
2009年より、すべての現職教員に、
教員免許状の更新講習が義務化されました。
免許状の更新には定められた講習を受けることが義務付けられています。
講習のために、授業を自習にしたり、一時的に代わりの先生にしたのでは本末転倒です。

講習は、夏休みのような時期に行うのがベストなのです。

(4)教員のスキルアップ
教員免許の格上げにも時間が必要です。
教員免許は、専修、一種、二種と区分されていますが、教員免許を上位のものに格上げするため、
大学の単位を追加して履修したり、免許法認定講習といったものを受講したりしなければなりません。

さらに、
教材の研究、開発といった直接的な授業の質の向上のための活動にも十分な時間が必要です。
これらは、子どもへの授業が一定期間猶予される夏休み期間中が適切といえます。

(5)学校設備の維持管理
 

学校設備や建物の維持管理(メンテナンス)活動にも夏休みは都合がよいのです。
学校には、子どもの安全や衛生を守るための設備がたくさんあります。


屋上にある高置水槽などの給水設備の清掃や整備、

建物、消防用設備、防火シャッター等の点検や整備、
電気・照明・放送設備のメンテナンス
など、

子どもたちが学校にいない時にやるべきことはたくさんあります。

もし、夏休みのような期間がなければ、夜間作業ということにもなり、
その場合は、作業者の確保や予算などの負担も大きくなります。
何日もかかる校舎の耐震化工事や、トイレの改修工事なども安全かつスムーズにできないことになるでしょう。
 
 
(3)~(5)については、学校の教育機能の「充電」活動ともいえるもので、充電にかける時間を疎かにしたのでは、
学校が電池切れになってしまうのではないでしょうか。
どのようなものでも、よいものをインプットしなければ、よいものはアウトプット(または供給)することはできません。
電池切れの教育を望む人はいないと思います。

教育の質の向上をいうならば、学校や教員がよいものをインプットできるだけの十分な充電時間が欠かせません。
それが夏休みというインプット期間であるといえます。

  

夏休み短縮は大人にも関係

 

  

6.抜け駆け的な教育はアンフェアである

義務教育は国民の三大義務の一つであり、公立の義務教育の運営には国費が使われています。
その予算と運営の方法は、国民に公平でなければならないはずです。

・ 公平な授業時間(日数・期間)
・ 公平なカリキュラム
・ 公平な質
・ 公平な予算(経済的コスト)
 
などの中で学力を身につけ、成績を競うのが公立学校におけるフェアーな教育であるといえるでしょう。
しかし、地域の学力テストの成績順位が上昇すればよい、というような発想で、
全国的な教育の沿革のなかで長年守られてきた習慣を逸脱するのはいかがなものでしょう。
それが「子どものため」などという錦の御旗のもとに行われたのでは、違和感を感じざるを得ません。

学力テストの成績の向上も、授業環境の改善も反対する人は少ないでしょうが、
それが、地域独自の夏休みの短縮や特別の予算とエネルギー(エアコン運用に伴う電力等)の消費によるものであれば、
「抜け駆け」的であり、アンフェアとも言えるのではないでしょうか。

公教育が予算や基本的な運営で足並みを揃えず、ばらばらに独自性を競っていれば、

国全体の「国民」への教育の公平性がないがしろにされると考えられます。

行き過ぎれば、公教育の制度が壊れるのではないでしょうか。

 

 抜け駆け的・アンフェア

 

 

関連年表

2002(H14)年 旧学習指導要領(いわゆる「ゆとり教育」)完全実施(小・中学校)、学校完全週5日制
2003(H15)年 「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」(中央教育審議会)の中の「教育課程を適切に実施するために必要な指導時間の確保」にて、「長期休業日の増減」を各教育委員会にゆだねるべきとの答申が出る
2005(H17)年 東京都葛飾区の中学校で夏休みの短縮が行われる(1週間、2003年答申後初?)
2006(H18)年 東京都葛飾区の小学校で夏休みの短縮が行われる(1週間)
2008(H20)年 改訂学習指導要領(いわゆる「脱ゆとり教育」)告示
2009(H21)年 教員免許状の更新講習が義務化される
2011(H23)年 小学校の改訂学習指導要領の完全実施(6年間合計の授業時数が5645時間に
2012(H24)年 中学校の改定学習指導要領の完全実施(3年間合計の授業時数が3045時間に

2013(H25)年 「今後の青少年の体験活動の推進について」(中央教育審議会)にて、夏休みの利用も含めた体験活動の重要性を答申
2013(H25)年 「土曜授業に関する検討チーム 最終まとめ」(文部科学省)
2014(H26)年 東京都葛飾区が夏休みの短縮を廃止、夏休みの最終日が8月末日に戻される

(年表の解説と夏休みの法的根拠)
公立学校の夏休みの期間を各教育委員会が定めることができる法令上の根拠は、学校教育法施行令第29条です。
これに基づいて各地域の教育委員会が、
「学校管理規則」や「学校の管理運営に関する規則」などと呼ばれる教育委員会規則により、学校の休業日を定めています。
教育委員会規則を定める決議を行うのは教育委員会会議です。
公立学校が休業日を変更する場合には、あらかじめ教育委員会に届け出なければならないなど、
学校の休業日は各地域の教育委員会規則によって管理されています。

いわゆる「ゆとり教育」とともに「学校完全週5日制」はスタートしました。
それまで授業が行われていた土曜日を休日にした完全週休2日制です。
土曜日を全国的に休日とする根拠は、学校教育法施行規則第61条(旧47条)という文部科学省令です。
(その後、省令は改正され土曜等の休日の規定は、「教育委員会が必要と認める場合はこの限りでない」との但し書きが加わり、現在は土曜授業もできることにはなっている)
「ゆとり教育」の時代に制度化されて定着した週5日制(土曜休日)は、ほとんど見直されることもなく、
「脱ゆとり教育」とよばれる改訂学習指導要領と授業時数の増加が実施されました。 

休日の種類 文部科学省 教育委員会 備考
学校の休日を定める権限
土曜日 学校教育法施行規則第61条(旧47条)
ただし、教育委員会が必要と認める場合はこの限りでない
夏休み(長期休業日) × 学校教育法施行令第29条
教育委員会規則(学校管理規則など)

  

授業時間を増やしたい場合は、週あたりの授業のコマ数を増加する(具体的には一日の授業時間を増やす)か、
夏休みなどの長期休業日が手を付けやすいのでしょうが、
どうしても休日を減らさざるを得ないのであれば、「ゆとり教育」になる前のときのように土曜日(月1回や隔週で可)の授業を復活すればよいでしょう。
しかし、上記「3.新学習指導要領(脱ゆとり)でも夏休みの短縮は不要」のところで書いたとおり、
改訂学習指導要領のもとでも、夏休みを短縮しなければならないほど法定の授業時数が増加しているわけではありませんし、
実際、夏休みを短縮していない地域が多いのです。

授業時間が足りないなどというのは、その原因が学習指導要領等の改訂にある、というよりも、
学校(地域)がかかえている根本的な問題に起因しているのではないでしょうか。

また、2003年(平成15年)に文部科学省中央教育審議会から出された、
長期休業日の増減を各教育委員会にゆだねるべき、とする答申
(「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」)は、「ゆとり教育」のもとで出されたものです。
当時は、授業時数も少なく、夏休みの短縮など想定していなかったのではないでしょうか。

「ゆとり教育」をやめ、当時は想定できなかった事態が生じている現在、
古くなったこの答申は撤回した方がよいでしょう。

年表には、全国に先駆けて教室へのエアコン導入や夏休みの短縮が行われ、
マスコミでも報道されていた東京都葛飾区の動きも入れてみました。
学習指導要領の改訂とは関係なく夏休みを短縮したり、短縮をやめたりしていることがわかると思います。
葛飾区では毎月第2土曜日を「葛飾教育の日」とよび土曜授業を実施していますが、
現在、葛飾区内のすべての公立小中学校の夏休みは8月31日までとなっています。
(確認したい方は「葛飾区立学校の管理運営に関する規則」第3条(2)を参照してみてください)
葛飾区の事例は、いろいろと参考になることがあると思います。

 

  関連年表

 

      

あとがき

授業時間が足りないならば、まずは、無駄に長い行事の練習(例えば、「見世物」のような運動会・体育祭のための練習、合唱祭・学芸会・卒業式・その他特別活動等の練習や演習)をはじめ、長い清掃時間、朝会(朝礼・集会)、朝の会、帰りの会、学級活動、自習時間、実技教科(図工美術・家庭科・音楽等)の過大な制作課題、修学(校外)旅行、遠足、職業体験、生活指導、安全指導、食育指導、小中一貫活動、2分の1成人式、クラブ・部活動・スポーツ(マラソン・球技等)大会、学校単位で参加する地域イベント等とその準備・・・を支障のない範囲で適切に合理化し(なくせと言っているのではありません)、学校本来の授業に専念する環境を整えるべきでしょう。それでも足りなければ、かつて行っていたような土曜日の授業を復活すればよいのではないでしょうか。

現在の学校はやることがあまりにも多すぎるのです。学習指導要領の範囲を超えた様々なことまで学校が引き受け、時間が足りなくなったから夏休みを短縮するという形で安易に児童生徒の休日を無くすのでは、会社の都合で休日をとらせないような社会的に批判されている一部の企業の論理と同じではないでしょうか? 従業員を長時間拘束するブラック企業のように、学校が児童生徒を必要以上に長時間拘束するような「ブラック学校」にしてはならないと思います。

このページでは学力問題の議論は行いませんでしたが、よく引き合いに出される「分数もできない大学生」についていえば、基本的な計算能力や読み書き能力は学校の一斉授業のみで身に付くものではないことは誰でも知っていることです。反復が必要な基本学力は、一斉授業から離れたところで訓練をさせた方がよほど身に付くでしょう。画一的な一斉授業に長時間も拘束するのはかえって学習の遅れている子(計算や読み書きの習得)にとって害にさえなりかねませんし、そもそも学校は補習塾でも進学塾でもありません(例えば分数が出来ない子がいるからと言ってそれにあわせて授業をしてくれるわけではない。・・・というよりも人的、物理的に不可能)。
さらに、夏休み中の子どもの食事(給食)や生活態度についても学校に求めるものでもないでしょう。学校は託児所ではありませんし、そのような理由により、夏休みを有意義に過ごしている他の児童生徒の時間を奪う権利などないからです。

夏休みの短縮によって失うものを熟慮すべきです。目先の単純な時間数の確保のために、夏休みを減らすことが、はたして長期的にみて子どもの成長のためになるのでしょうか? そうして得た時間で、夏休みで得られる以上のものを子どもたちに提供することができるのでしょうか? 

最近、夏休みの宿題を「宿題代行業」に依頼する家庭が増加しているそうですが、これは夏休みの短縮とともにあらわれてきた現象ではないでしょうか。このような業としての宿題代行の話題は、夏休みが短縮される以前にはほとんど聞いたことがないからです。本来、家庭や地域で行われるべき学習や体験(受験勉強、スポーツ、習い事等も含め)が、夏休みの短縮によって制限を受けざるを得なくなっていることへの対応の一つと言わざるを得ません(これがよいこととは思いません)。学校の宿題を蔑ろにせざるを得ないような夏休みの制度とはいったい何なのでしょうか。

私たち大人は、子ども時代に十分な夏休みを学校から与えられ、夏休みならではの貴重な体験や思い出をつくりながら成長し、大人になることができました。その貴重な体験をするための時間を子どもたちから奪ってはなりません。

学校は理論や集団としての教育、そして、夏休みにおける家庭、地域、自然は実践としての教育の場であり、それぞれが、両輪のようにまわって、子どもは成長出来るのです。夏休みの体験は学校の授業では代替のできないものばかりです。

そうした夏休みの教育的効果について熟慮をしないままの安易な短縮は、百害あって一利なしといえるのではないでしょうか。

  

学校の夏休みの短縮に反対します。 


 
 

  

 
  

  

(最終編集) 2018年 (ページ作成) TG 
(twitter) @summer20150831 

 

 

 

 

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